日置南洲窯 代表 西郷隆文 氏

掲載号:「中小企業かごしま」2010年5月号掲載

伝統と現代の融合 ~薩摩焼ブランドの確立を目指して~

陶芸家になるきっかけは

陶芸家になる前は、東京のアパレルメーカーに勤務していました。原糸メーカーから届く糸を使い、半年先、一年先の流行を予測してデザインし、製品化する。それが私の仕事でした。常に流行の最先端を行く仕事は楽しく、充実していました。

ある日、中学時代の恩師である有山長佑氏と二人で上野の美術館に立ち寄ったことがあります。そこには、これまで見たこともない斬新な陶芸作品が並んでおり、サイケデリックな色使い、作品としての存在感にショックを受けました。デザインを施されたオブジェのような陶芸作品に出会った初めての体験でした。そして、有山氏から「お前も長男なんだから、そろそろ帰ってきてもいいんじゃないか。焼物でもして俺を手伝わないか」と言われ、結果的にはこの言葉が私を陶芸家へ導くことになりました。長男だから、いつかは帰郷しなければならないという気持ちは常に持っていました。「材料が糸から土に変わるだけ。焼物も面白いかもしれない」という思いで帰郷したのが25歳の時です。

帰郷し、有山氏のもとで陶芸を学ぶことになりました。有山氏は私が中学時代、美術の教師を務めておられましたが、実家の「長太郎焼本窯」を継ぎ窯元となっていました。

「長太郎焼本窯」は「黒薩摩」の伝統的な技法を受け継ぐ由緒ある窯元なんですが、ここで「黒薩摩」の製作技法を学び、窯入れ・窯だしから土や釉薬の使い方など5年間修行した後、30歳の時に独立し、日置南洲窯を開きました。これが現在の活動拠点となっています。



陶芸家として

活動拠点である「日置南洲窯」は、私の母の出であります、日置島津家の菩提寺の大乗寺跡に昭和53年に開設しました。

伝統的な「黒薩摩」作品を制作する一方で、常に新しいものに挑戦しています。「流行は追わない。他人と同じものは作らない」というポリシーから生まれたのが「蛇蝎釉」、「陶胎漆器」といわれる焼物です。どちらも伝統的な技法ではありますが、これに新たな技法を加えることで、新しい作品に生まれ変わっていると思います。

焼物の地産地消 ~飲食店と連携、器を提供~

鹿児島県陶業協同組合の理事長となって十数年が経過しました。設立当初、若い組合員の多くは流行を追いかける体質がありましたが、「流行を追うのではなく、オリジナルにこだわりなさい」と若い窯元には言ってきました。その成果もあって、ここ数年で各窯元に個性が生まれてよい作品が出来るようになりました。そこで始まったのが「焼物の地産地消」という試みです。これは窯元と飲食店がペアを組んで薩摩焼の器で料理を提供するものです。組合では組合員である窯元にまず試作品を作ってもらい、店の雰囲気や料理を参考に作品を制作し納品しました。期間限定のイベントでしたが、地元鹿児島で薩摩焼を使っていただくことで、薩摩焼のアピールが出来たと思います。今後も様々な活動を通じて薩摩焼の普及活動を続けていきたいと思っています。

薩摩焼ブランドの確立

薩摩焼は数百年の歴史と伝統を持つ焼物です。そして「古薩摩」と呼ばれる古い作品は評価も非常に高い。しかし、現在の新しい薩摩焼の評価は残念ながら、まだまだ低いといわざるを得ません。鹿児島県内には100を超える窯元がありますが、歴史と伝統を受け継ぐ古い窯元もあれば、窯を開いて間もない若い窯元もいます。作品や作風もそれぞれ違います。薩摩焼が更なる評価を得るためには、窯元の個性発掘とそれを活かした作品作りが重要です。例えば「白薩摩」の場合、陶工としての高い技術と共に、緻密な絵付けのセンスも要求されます。こんなとき、窯元同士が適材適所でコラボ出来れば、更に良い作品が出来ると思います。

また、デザイナーを起用することで、これまでにない芸術性あるいは実用性の高い薩摩焼が生まれるかもしれません。技術と感性のコラボレーションで薩摩焼の作品性を高めることで、「薩摩焼ブランド」を確立させ、いずれは世界に通用する「JAPANブランド SATSUMA」にしていきたいと思っています。

概要

西郷隆文氏は西郷どんで知られる「西郷隆盛」の曾孫にあたる。NPO法人「西郷隆盛公奉賛会」の理事長を務め、郷土鹿児島の歴史・文化・伝統の研究に力を注いでいる。また、鹿児島県陶業協同組合の理事長として、毎年「春の窯元まつり」と秋の「薩摩焼フェスタ」を開催、薩摩焼の振興発展に尽力している。

                 
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